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2021年9月30日 (木)

NEW GAME!最終章、フェアリーズストーリー4編の不満点

先日、NEW GAME!の最終巻となる13巻が発売されました。

私は10年ほど前からまんがタイムきららキャラットの購読を続けていたこともあり、NEW GAME!は連載がスタートした2013年初頭から8年半の間、作品を追い続けることになりました。

NEW GAME!という作品に特にハマるキッカケとなったのがPECO編で、その後のDDB編のキャラデザコンペ回(8p25~)までは作品の評価がずっと右肩上がりで高まっていました。

しかしながらDDB編の終盤、そして最終章となったFS4編はそれまでの右肩上がりの評価と共に高まり続けていた期待からは程遠い作品に成り下がってしまいました。

私自身がNEW GAME!に期待しすぎたところはあったにせよ、そういった個人的な感情を抜きにしても、FS4編に入ってからはここはもう少しどうにかなったんじゃないの?と思うような描写が多々あったため、今回FS4編を通して抱いていた不満点をまとめてみることにしました。

 

①メインキャラデザのコンペ無し

PECO編、DDB編とメインキャラデザはコンペの開催により決まっていましたが、FS4編ではコウの独断により最初から青葉に決まっていました(9p118)。

コウは青葉を選んだ理由として「青葉にしか描けないものを頼もうとしている」「私が欲しいテイストを出せるのは青葉」と言っていますが、それはPECOをやり込んでいたソフィー(8p74)の影響が大きいのではないかと思います。

自分が武者修行へ行ったフランスの地で、その国の女の子が青葉がデザインした日本のゲームにハマっているわけですからね。

しかしながらフェアリーズストーリーに魅了されてイーグルジャンプに入社時したのは青葉だけでなく紅葉も同じです。にも関わらずコウの一存で紅葉にメインキャラデザになるチャンスすら与えなかったのは非常に残念でした。

 

②紅葉の副業問題のタイミングと結末

青葉と紅葉のライバル関係が好きだった私にとって、メインキャラデザのチャンスを失った紅葉が異なる業界で活躍の場を見出しにいく展開は(10p73~)は歓迎するものでした。

ただ、紅葉の副業と社員旅行のタイミングが重なってしまったことで、紅葉が副業で頭を悩ませるシリアスな展開と社員旅行のほのぼのとした展開がゴチャ混ぜになっていたのが残念でした。

初見が単行本(10巻)であれば副業の結末まで一気に読めるため、それほど気にならなかったのかもしれませんが、雑誌で毎月追っていた身としては、先に副業の問題をしっかり片付けてから社員旅行の話を心置きなく楽しませて欲しいと思っていました。

また、副業の結末についても、紅葉、編集者、原作者の間で問題を解決するような展開ではなく、編集者側で勝手に炎上して仕事がご破産になるという紅葉の力が及ばないところで話を畳んでしまい、後々のイラストの仕事には繋がる(13p56)にせよ、ここだけを読んでいると後味の悪い締め方に思いました。

 

③作中のキャラクターが社員モチーフ

FS4編で最も評価できるシーンは主人公のノアが生み出される話(11p25)だと思っています。ここだけに関しては青葉がコンペ無しでメインキャラデザに抜擢された意義を感じました。

ただ、ノアが生み出される話が良かっただけに、以降もそれをなぞるかの様にイーグルジャンプの社員をモチーフにしたキャラクターが生み出されていく話(11p57~)が続き、当然ノアほどのインパクトが残るような話も無いし、青葉もそれほどキャラデザに苦労した様子も無い感じ。さらにはうみこも言っていたように身内が楽しむだけの内輪ネタで盛り上がっている感もあって、単純に読んでいてつまらなかったです。

また、これはしずくが急遽仕様を変更したというのもありますが、何も無いところからではなくモチーフがある状態からキャラクターが生み出され続けることで、コウの言っていた「青葉にしか描けないもの」という理由がこの一連の話で薄れてしまった気がします。

 

④ライバル感に欠けた青葉と紅葉

紅葉はメインキャラデザにこそ選ばれなかったものの、隙あらばキャラデザに挑もうとしている雰囲気は見せていました。それはノアやガーネットが生まれる話(11p25、11巻p102)の一コマからも見て取れます。そんな紅葉の気持ちがようやく実を結んだのがラスボスのキャラデザ(11p113)です。

ただ、コウが「待ってたんだぜ いつ描いてくるか」と言ってるように、ラスボスを描いてくる前では青葉に隙きあらば自分が描くよと言ってる割には、コウに見せるまでには至ってなかったようです。

紅葉の性格であればもっと前から積極的に見せに行きそうな気がしますが、DDBでメインキャラデザに抜擢され、仕様変更で修羅場になっても全てのキャラクターを自分だけで作り上げてきたプライドもあってか、FS4編ではメインキャラデザの青葉に対する遠慮がかなり見られるようになりました。

それによってDDB編までは対等なライバル関係に見えていたものが、FS4編では仕事上の立場から青葉紅葉に見えてしまうようになったのが非常に残念でした。

また、紅葉がラスボスのキャラデザを提示した際にコウがコンペを持ちかけるものの、青葉はあっさり負けを認めています。

青葉も紅葉も互いを認め合うことは良いとは思うのですが、ライバル同士でバチバチやり合う構図が最後まで見られなかったところが、FS4編の中で特に期待ハズレな点でした。

104話の扉絵の構図(10巻p17)とは一体何だったのかって思ってしまいます。

 

⑤プログラムチームの見せ場不足

PECO編ではねねとツバメの仲違いやツバメのミスが発覚したことにより、プログラムチームにスポットが当たる話が多くありました。

一方でDDB編では開発終盤にプログラムチーム側で何も問題が起きることなく終わったため、FS4編ではプログラムチームに再び大きな問題が巻き起こるのではないかと期待していました。

もちろんこれは問題の発生自体を期待していたのではなく、困難に立ち向かうことで若手のねねやツバメの成長に繋がる展開が見たいとの思いからです。

そういった期待を抱いていたため、FS4編でプログラムチーム側で起こった一番の問題と言えるのが、ゲーム開発に関することではなくツバメの家庭の事情(12p20~)だったことがただただ残念でした。

この問題ではツバメに関してはプログラマーの知識や経験を活かして実家に貢献できるところを示し、母親に成長した姿を見せられていたのは良かったです。

一方でねねはツバメが休職したことでやる気が空回っていたり、代わりの人が来ることでモチベーションが下がったりと苦しんでおり、ここをどう乗り越えるのかと思って見ていたら、最終的には根性論を突き通すようなまとめ方で終わり、結局この問題でねねは何も変わっていないのでは?と思う他なかったです。

ねねはねねのまま変わらない方がねねらしいというポジションなのかもしれませんが、それにしてもシリーズを通してねねのプログラマーとしての成長をほとんど感じられなかったのは残念の一言に尽きます。

最終巻のあとがきでねねが実はAIが得意だったことが明かされていますが、一文でさらっと書かれても後の祭りです。そういったところを本編にキチンと盛り込んで欲しかったです。

 

⑥涼風青葉のクソガキ化

①~⑤まではそれなりに客観的な視点で書いてきたつもりですが、⑥に関してはかなり個人的な感情が交じってますので、あらかじめご了承ください。

青葉のクソガキっぷりはFS3編の私服選びで親を頼るところ(2p90)からも垣間見えていましたが、FS4編ではそれがより顕著になり、ついには他人に迷惑をかけるまでに至っていました。

1つ目はサバゲー回でツバメに至近距離でエアガンを乱射した事件(10p67)。

ギャグ回ではあるものの、リアルでやったら完全にアウトな危険行為です。しかもツバメに怒られても謝らないどころか「へ?」というトボけた顔で危険なことをした自覚が何一つなく、青葉本人だけでなく親の教育方針にも疑問を持ってしまいます。

2つ目は紅葉と打上げの買い出しに行った回(12p103~)。

重い荷物を持ち運ぶことができず、より重い荷物を持っている紅葉にひたすら文句を言うばかり。挙げ句、紅葉が手を貸そうとするとやり方に納得が行かず膨れっ面になる始末で、親の手に追えない子供そのものです。

仕事に対してはいつも真面目で前向きで一生懸命である分、プライベートではわがままな一人娘タイプというギャップを見せたかったのかもしれませんが、他人に迷惑をかける上に自分の行った行為を悪いとも思わず、謝る素振りすら無いようなキャラクターはそもそも好きになれません。

お仕事パートとプライベートパートは完全に切り離して見るべきなのかもしれませんが、仕事はキチンと出来るのにプライベートで親の教育不足を露呈してるような性格だと、いくら漫画のキャラクターと言えども、本当に同じ人間なのか?という疑問を抱いて人間味を感じなくなります。

なので私はFS4編を通じて青葉に魅力を感じなくなってしまいました。

 

⑦八神コウが何一つ成長していない

FS4のメインキャラデザをコンペ無しで青葉を選んだ時点ではフランスでの経験を活かして、これまでとは違ったやり方でADの職責を果たしていくんだろうなと思っていました。

しかしながらFS4シリーズを通して見ていくと、以前から何も変わってないなと思うところが随所で見られました。

1つ目は主人公のノアが誕生する話(11p25~)。

青葉が苦慮して何とか主人公のデザインをまとめた後も一人だけ納得せず、具体的な改善策の指示が出せていません。その後青葉と飲みに行って青葉がコウの言葉をしっかり拾い上げたことで、ようやくコウ自身も納得の行くデザインが生まれましたが、部下の青葉のやる気に助けられた感が否めません。

2つ目はカトリーヌがほたるをキービジュアルに据えることを提案した回(13p9~)。

カトリーヌから青葉をメインキャラデザに指名した理由を問われた際に何も反論できずにいますが、それまでに青葉や紅葉に対しても「青葉にしか描けないものを頼む」と言っておきながら、咄嗟の出来事とはいえ一言も発せずにいるのは問題がありすぎます。

いくら「青葉がコンペで勝ったことがない」という裏の理由で図星を突かれようが、あの場面では青葉を選んだ真っ当な理由をカトリーヌにハッキリ伝えるべきです。

その後の「私が描きます」はキービジュアルコンペに向けた時間稼ぎの意図を感じるので情状酌量の余地はありますが、黙り込んでしまった点については明らかに上司失格な行動だと思います。

部下がコウを信頼している青葉なので、紅葉の助けもあって1週間休むだけで復活することができましたが、普通の部下だったらFS2の時と同様に辞めてしまったことでしょう。

この後の実質最終回(13p25~)を劇的にするため、青葉を一旦どん底に突き落とす必要があったのでしょうが、その代償としてコウの上司としての成長が全く感じられなくなってしまったのは、FS4編どころかNEW GAME!という作品全体の中で最大の汚点と言いたいです。

 

⑧実質最終回の茶番劇

キービジュアルコンペの回(1325p~)は実質的な最終回として位置付けられていますが、パッと見はエンターテイメント性が高く、何もかも丸く収まっているハッピーエンド風に見える作りなので、NEW GAME!をそれほど読み込んでいないライト層にとっては、これ以上ない大団円に受け取れるのではないかと思います。

しかしながらキャラットで毎月何度も繰り返しNEW GAME!をしっかり読み込んでいた一読者としましては、あらかじめ仕込まれた感がアリアリの茶番劇で作品の幕を下ろされてしまい、ただただ失望するしか無かったです。

まずは青葉が一週間も無断欠勤していたにも関わらず、たった2日あまりでキービジュアルを描き上げるほど立ち直っていること。

1つ前の回にあった紅葉のグーパンチ(13p21)で目が覚めたとはいえ、立ち直るのがあまりにも早すぎます。

次にしずくチームの部下たちが一週間無断欠勤していた上に当日寝坊までした青葉のために、コンペ開始の遅延行為を演じていること。

いくら青葉が会社の看板を背負う立場にいるとはいえ、可愛ければ何でも許しそうなしずくはともかくとして、青葉の一連の行動を快く思わない社員もいるのではないかと思います。

それとこれは重箱の隅をつつく話ではありますが、運動オンチな青葉がはじめから突如渡されたマウンテンバイクを乗りこなしていたのにも違和感がありました。

そして極めつけは明らかに実力差のあるほたると青葉の対決で、青葉のイラストが満場一致で選ばれた事です。

PECO編のキービジュアルはコウの方が優れていることがわかりやすい構図だったので、結果もすんなりと受け入れられましたが、今回の青葉のイラストはノアの表情をアップで見せているだけです。

ゲーム制作に携わっているイーグルジャンプの社員からすればノアの背景を知っているので感情を揺さぶられるものがあると思います。しかしながらFS4がどんな物語になるのかまだ知る由もないゲームユーザーが、雑誌や広告で青葉のイラストを見ても果たしてゲームの内容が伝わってくるのだろうか?という疑問が拭えません。

また、キービジュアルが青葉に決まったタイミングで、難航していた芳文堂との共同出資が決まってしまうというのもご都合主義が極まりすぎていて、作中の盛り上がりとは対照的に私自身は作品に対する熱が一気に冷めてしまいました。

 

■総評

先日発売された画集で得能先生がこれまではセリフを入れてからでないとストーリーを作れなかったが、FS4編では脚本術の本を参考にして決まった形式に当てはめてストーリーを作っていたことを明かされていました。

普通の漫画家や小説家であればそういった手法の方が読者を惹きつけるストーリーを生み出しやすいのかもしれませんけど、NEW GAME!が連載されていたのはまんがタイムきららキャラットです。

NEW GAME!はきららの4コマ作品の中ではかなりストーリーに重きを置いた作品ではありましたが、それでもストーリーだけでなくキャラクターにも惹かれている読者が数多くいたのではないかと思いますし、私もその一人です。

私がNEW GAME!で一番好きなシリーズはPECO編ですが、PECO編の時はキャラクターありきで作られたストーリーだったので、ストーリーはもちろんキャラクターの人間性にも魅了されていました。

しかしながらFS4編はストーリーありきでキャラクターが動くような話ばかりだったため、キービジュアルで青葉をどん底に陥れるためにコウを沈黙させてしまったシーンを筆頭にキャラクターの人間的な魅力が薄れてしまうような描写が多く、結果としてストーリーにも魅力を感じられなくなってしまいました。

漫画家としては始めから起承転結をしっかり決めた上でキャラクターを動かす方がストーリーを作りやすいのでしょうが、キャラ愛の強い読者が多いきらら誌上で連載するのであれば、キャラクターありきでストーリーを作る手法の方が良いと私は思います。

 

得能先生は今後COMIC FUZで新連載を予定しているようですが、新作でもFS4編と同じような作り方をするのではなく、キャラクターの人間的な魅力もしっかりと表現されるような作品づくりをしていただけること切に願います。

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